万葉の旅 3
「宿泊してゆくわけにはゆかぬ旅だ、せいぜいゆっくりと馬を歩ませて、この志賀を満喫してゆこうじゃないか」とうたう前者。
「ぜひ昼間見たかった田児の浦の有名な絶景を、官命に従わざるを得ない旅行日程ゆえに、夜見たことである」とうたう後者。
いずれも官人たちの旅の在りようをあらわした典型的な歌と言えるでしょう。
駅館」というのは、.」ういう官人たちが、馬を乗り換えたり、食事をしたり、宿泊したりする設備でした。
そこの柱にその一首がかけられていた、というのです。
通りがかりの官人たちは、むろん字は読めました。
しかも、そのうちの何割か、かなりの人達は、第三句までが序詞で、以下を導きおこしている短歌の構造を理解しえたのでしょう。
「つばらつばらに吾家し思ほゆ」。
なるほどなあ、といった感じで共鳴したにちがいない、と思われます。
・・・でなければ、駅の柱に歌を書いた紙など貼ってあるわけはないでしょう。
万葉集の旅の歌の中心をなすのは、官人たちの公用の旅の歌です。
彼らは七街道を通って各地へと任務を帯びて散っていきます。
駅から駅へと伝うようにして旅して行ったのです。
そして、その駅に、時には、歌の一首が貼られてあったりもしたわけです。